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札幌地方裁判所 昭和25年(行)9号 判決

原告 吉田一太郎

被告 北海道知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が別紙目録の各土地(以下単に本件土地という)についてなした昭和二十四年八月五日付買収令書による買収処分は取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として

第一、昭和二十四年六月二十五日当時の訴外安平村農地委員会(以下単に村委員会という)は、原告所有の本件土地について自作農創設特別措置法(以下単に自創法という)第四十条の二第一項第三号により牧野買収計画を樹立し、同日その旨公告した。原告は、右買収計画を不服として同年七月十三日同委員会に異議の申立をしたが、同月二十二日付決定で却下されたので、更に、当時の北海道農地委員会(以下単に道委員会という)に訴願したところ、これまた昭和二十五年一月三十日付裁決で棄却され、該裁決書謄本は、同年二月十一日原告に送達された。而して被告は、前記買収計画に基き、買収の時期を昭和二十四年七月二日とする同年八月五日付買収令書を発行し、昭和二十五年二月十一日これを右裁決書謄本と共に原告に送付して来た。

第二、しかしながら

(一)  凡そ、牧野買収計画につき異議および訴願があつた場合においてこれらについて、決定および裁決があつたときは市町村農地委員会は、遅滞なく当該牧野買収計画について都道府県農地委員会の承認を受けなければならず、都道府県知事は右承認のあつた牧野買収計画により牧野の買収処分をしなければならないのである。ところで、被告は、村委員会が前記訴願裁決以前に道委員会から承認を受けた本件買収計画により本件買収処分をなしたものであるから、自創法第八条第九条に違反するもので、結局適法な承認を受けないものというべく、従つて、本件買収処分は違法である。

(二)  仮りに然らずとするも、村委員会が右買収計画に対する異議申立期間中しかも原告からの異議申立の有無未定の間に、本件土地買収の時期を昭和二十四年七月二日と定めたことは、原告の権利行使を抑圧したものであつて、かかる買収計画は不当であり、これに基く本件買収処分は違法である。

(三)  以上いずれも理由がないとするも、本件土地は、山林であつて牧野ではない。即ち(イ)本件土地は、原告がその先代の時代から主として林木育成の目的に供しているものであつて、間伐その他の手入れを怠らず、且つ本件土地には二十年生ないし四十年生の立木が密生していて、樹冠の疏密度〇、三以上の箇所が相当の地積にわたり、全体として林地を形成するものである。しかも(ロ)本件土地は勇払原野中最悪の火山性砂土地帯で不毛の土地であり、採草量の如きも年間反当り乾草二十貫以下の生産に過ぎず、この点から見るも牧野でないこと明白である。されば村委員会が本件土地を牧野としてこれについて買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれに基いて被告のなした本件買収処分もまた違法である。

以上のとおりであるから、右処分の取消を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の主張事実中右買収計画について道委員会が被告主張の如き承認をしたとの点は否認する。仮りに右の如き承認がなされたとしても、前敍の如く訴願裁決以前たる時期において、承認をなすこと自体が違法であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として原告の主張事実中第一の事実は認めるが、その余の事実はこれを争う。即ち

(一)  道委員会は、昭和二十四年七月二日村委員会の樹立した本件土地の買収計画について、他日原告が異議、訴願をした場合はこれらについて却下の決定および棄却の裁決があつたときはその効力を発生せしめることとする所謂停止条件附承認をした。而して、原告主張の如くその異議は却下され、訴願は昭和二十五年一月三十日道委員会において審議の結果これを棄却したから、右承認はこれと同時に効力を生じたものといわなくてはならない。従つて右承認によつて確定した前記買収計画によりなした本件買収処分は適法で、違法のかどはない。

(二)  本件土地の買収の時期が異議申立期間中に属していても、原告は、前敍の如く、異議、訴願をなし、これらについて決定および裁決を受けているから何等原告の権利を不当に抑圧した違法はない。

(三)  本件土地は、かつて吉田牧場と称せられていた土地の一部であつて、元来原告の先代の時代から馬の放牧の目的に供せられていた牧野であつて、山林ではない。

以上のとおりで、本件買収処分には何等違法の点はないから、その取消を求める原告の請求は失当である。

仮りに右処分に取消し得べき違法があるとしても、本件土地のうち百十町歩は既に昭和二十五年三月三日訴外星芳雄ほか十二名に売渡され、このうち星芳雄ほか四名についてはこの売渡によつて得た土地によつてのみ営農していることであり、他の者も右売渡された土地を失うとなるといずれも忽ち生活に困窮を来す事情にある。しかも、星芳雄ほか二名は夫々売渡された土地に住宅を建て、更に若干名は、右土地の一部を耕地化している現状にある。かかる事情のもとに、本件買収処分を取消すことは、これ等十三名の生活を根底から覆すものであるから、原告の請求は行政事件訴訟特例法第十一条によつて棄却さるべきであると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告所有の本件土地につき原告主張の各日にその主張の如き買収計画樹立、異議、却下決定、訴願ならびに訴願棄却の裁決がなされ、該裁決書謄本が原告に送達されたこと、被告が原告主張の日その主張のような買収令書を右裁決書謄本と共に原告に送付されたことはいずれも当事者間に争いがない。よつて、先ず本件買収処分が道委員会の適法な承認があつた買収計画に基いてなされたかどうかについて判断する。成立に争いのない甲第三号証の二によれば、右計画について昭和二十四年七月六日道委員会が承認したことが認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。従つて右承認が本件訴願棄却の裁決前になされたこと前敍事実から明らかである。

しかし、同号証、弁論の全趣旨および当裁判所に顕著である「北海道農地委員会は往々にして、農地買収計画について停止条件附承認を与えている」事実に徴するときは、道委員会は、本件買収計画につき、自創法第八条による異議却下の決定がなされ、且つ、訴願棄却の裁決がなされたときその効力を発生させることを一つの条件とする所謂停止条件附で前認定の承認を与えたことを推認することができる。そこで、右条件附承認が果して適法であるかどうかにつき考えるに、かゝる承認は無効であるとの説をなすものがないではないが、所謂農地改革制度は適正に運営されなくてはならない反面、手続の急速処理が強く要請されていることや自創法第八条の承認が、単に上級行政庁から下級行政庁に対する行政庁内部の意思表示に過ぎず外部に向けて表示せられるものではなく、又これによつて何等直接に農地所有者小作人等の第三者に対し、法律上の効果を及ぼすものでないことに鑑みるときは、自創法は、承認に前記のような条件を附することを禁止するものでなく、むしろこれを許容するものというべく、従つて、かゝる条件附承認は有効と解するのが相当である。されば前記承認は、昭和二十五年一月三十日本件裁決がなされると同時に右条件は成就し、その効力を発生した有効のものといわなくてはならない。されば、被告の承認があつた前記買収計画によりなされた本件買収処分もまた有効のものと断ぜざるを得ない(尤も、本件買収令書の日附が昭和二十四年八月五日であることは、前示の如く当事者間に争のないところであるがこのことは、本件買収処分の効力を左右するものでない。)から、原告のこの点に関する主張は理由がない。

次に本件土地の買収の時期が異議申立期間中である昭和二十四年七月二日とせられたことは当事者間に争いのないところであるが、そのことが原告の権利を不当に抑圧するものであるということができないから、原告のこの点の主張はこれを採用することができない。

原告は本件土地は山林であると主張するに対し、被告は牧野であると抗争するから、この点について判断する。証人星清一、小華和一男、高橋友治の各証言、鑑定人金森功成、佐々木準長の各鑑定の結果、検証の結果、原告本人の供述、成立に争いのない甲第五号証の二、三によると、本件土地は一部急傾斜を除いては平坦な地形をなし、周囲には牧柵が設けられ、同地内には放牧畜の好食するヱゾミヤコザサが叢生していること、原告が畜産業を営むものであつて、その先代吉田権太郎が、少なくとも、今から約三十五年前本件土地を放牧地として買受け、爾来今日にいたるまでこゝに多数の牛馬を放牧し、吉田牧場と称せられて来たこと、他面本件土地には平均樹令二十六年程度の自然発生のカシワを主として少量のシラカバ、ナラ、アカタモ等が生立し、同地の内約三十九町歩が樹冠密度〇、三以上で、その余の約百五十町歩のそれは〇、三以下であり、樹林は枝打、間伐等の手入がなされて来たが、右林木は自家用薪材で林業上優良林とはいえないし、又右手入は樹木の育成そのものを主たる目的とするものでないことが認められる。前顕各証拠のうち右認定に反する部分はこれを信用しない。他に右認定を覆えすに足りる証拠がない。以上認定の事実を彼此綜合して考察すると、本件土地の主目的は林木の育成にあるのではなく、家畜の放牧にあるものというのが相当であるから、本件土地はこれを自創法にいわゆる牧野といわなくてはならない。従つて原告のこの点の主張もまた理由がない。

よつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 猪股薫 中村義正 石井玄)

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